少将滋幹の母 (中公文庫)



少将滋幹の母 (中公文庫)
少将滋幹の母 (中公文庫)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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谷崎潤一郎の手腕

寸毫も文章の調子を変えているわけではないのに
女の部屋に一歩踏み込んだ瞬間、雰囲気・場面を、
全く不自然さなしに変化させる、谷崎の腕。ため息が出てしまう。

例えば、「その一」後半、平中が侍従の部屋に忍び込む場面では、
遣戸の手をかけるところから、女の部屋の暗闇を予感させ、
空薫の香で読み手を一気にその暗闇の中へ、ぐいっと引き込んでしまう。

他にも感嘆させられてしまった場面がいくつもある。
特に、「その二」の冒頭から、上皇より仰せがあり、平中が歌とともに菊を奉る、
その流れをさらっと筆した(文庫で)1ページほどの運びは見事と言うの他ない。
また「その五」の國經が目覚めてから、讃岐との会話の終わるまでのところ、
実に、孕むものの多い、密度の高い文章だと思う。

小道具の配置、会話文の妙から、古歌・古文・逸話の挿入の仕方・タイミング、
谷崎の力量・感性がはじめからしまいまで冴え渡っている。

この作品を愛好せずにいられない人は、谷崎の王朝もの(「兄弟」「二人の稚児」など)
殊に谷崎訳の「源氏物語」も手にとって見てほしい、源氏にはきっと圧倒されると思う。




谷崎の最高傑作を美しすぎる装丁で

 王朝貴族趣味、母への慕情、明晰な文章とそれによって可能となる
ストーリーテリングの上手さ、『源氏物語』の現代語訳によって獲得した
独特の文体、さらに山葵や胡椒のようにピリリと利いたグロテスク趣味と
谷崎の全ての要素が余すところなく楽しめるという点で最高傑作であることは
間違いないが、本書の最大の魅力はその魅力的な作品が最近の中公文庫全てに
共通する美しい装丁で読めることに他ならない。読みやすい活字に、小倉遊亀画伯に
よる典雅で情緒に溢れた挿画と、自分などは新潮文庫版ではなくこの版ではじめて
本作品の魅力を再確認したと言っても過言ではなく(谷崎ファンとしてはお恥ずかしい
限りであるが...)、『細雪』の中公文庫版も本書と同様の美しい装丁で(現行版は
残念ながら美しいとは言いがたい)読めることを強く希望したい。



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