ドビュッシー音楽論集―反好事家八分音符氏 (岩波文庫)



ドビュッシー音楽論集―反好事家八分音符氏 (岩波文庫)
ドビュッシー音楽論集―反好事家八分音符氏 (岩波文庫)

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おもしろい訳文に楽しすぎる注

この本は、文庫でしか入手できない。しかも文庫でもどうやら絶版中のようである。元々は「季刊芸術」という気合いの入りまくった雑誌に1972年から1974年にかけて連載されたもので、私は大学の集積書庫でそれが揃っているのを見つけて大喜びしたものであった。その創刊号には著者も寄稿しており、「音楽のエクリプス」というその文章は、驚くべきことに旧仮名遣いで書かれているのである。ちなみに創刊号刊行は1967年の春である。さすがにこのドビュッシー音楽論集では旧仮名遣いではないけれども、著者のフランス語の人名表記には普通の書き方と随分違うところがあり、実をいうとそれは、より正しい表記であるのだが、著者の訳書や文章を特徴づける目印となっている。翻訳は、やはりいささか癖のある訳文なのだが、悪いものではない。慣れると楽しくなってくる類の名訳ではないかと思う。それ以上に、注が面白い。私はそういう本が好きなので、ここに一文を奏すことにした次第である。ドビュッシーの音楽論としては、ここで訳者が底本としているのは1921年の刊本であるが、同じ音楽論集で、より新しく増補された杉本秀太郎氏の翻訳(白水社)がある。功利的に考えれば、じゃあ平島氏の翻訳なんぞ読む必要はないではないか、と言われる意見も出ようというものだが、とにかく文庫でこれだけ面白いのは、読まないのは勿体ない。だから、できうるならば、両方とも読んで欲しいと思う。この本の訳は、おそらく日本では大田黒元雄氏の翻訳が最初であるかとは思うが、これはいささか訳文が堅く、平明ではない。本を入手するのも困難だと思う。ただ、もし大田黒訳を古書肆で見つけることができたなら、読んでいただきたい。ちなみに、原書を読もうという元気のある人はフランス語でペーパーバックがガリマールから出ている。が、不思議なことに、ドビュッシーのオリジナルの妙な文体よりも、訳文の方がドビュッシーらしく、面白い。そのあたりは私の感慨だが、皆さんも試してみていただきたく思う。



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